Lost Words
    神は始め、天地を創造された。「光あれ。」――こうして、光があった。
 | Back | 目次 | Next | HOME | 
  第五章 裏切りの枉曲 
* * *
――海賊船 船長室



「で、話って?」
 ゼルリアきっての将軍達と一通りの再会を喜び合った後、海賊船を束ねる男、ロイド・ラヴェンは客人を自室に通した。
「あ、副船長も後で来るっていってっけど、いいよな?」
「ああ、それはいーんだけどよ」
 応えたのは、アルフェリア。
「あんま、漏れちゃいけない話なんだな?」
「ええ、ゼルリア王国国王の義弟として、聞いていただければと思っています」
 ベアトリクスが重ねて、ロイドはぽりぽり顎を掻いた。
「そんなに、大事なのかい?」
「ミルガウスの闇の石版が盗まれた」
 鋭く放たれた言葉に、海賊は――ゼルリア国王義弟の肩書きを持った男は、特に表情を変えなかった。そうか、と頷く。
「先ほどの例を見ない魔物の襲撃から考えて、おそらく犯人はこの近くに潜伏しているのでしょう」
「遺跡かな」
 のんびりと呟いて、ロイドはひとつ伸びをする。
「町外れの。けど、今は行き来できないな。結界を内側から張っちまったもんな」
「『光と闇の陵墓』か。厄介だな」
「そうと決まったわけでもありませんがね」
 三人は、しばし沈黙を挟んで、息をつく。

「どーしようかしらねえ…」
 ノックしかけた手を動かすに動かされず、しかし下ろすに下ろされず。入れたてのお茶を片手に、船の女料理人、ジェーンは、肩を竦めていた。
「まさか、入るわけにもねえ…」
 海賊船の船長が、ゼルリア王の義弟という身分も持っているというのは、(仲間内では半分からかわれているが)、周知の事実。それでゼルリアの四竜を囁かれる将軍自らが尋ねてくるのは、まあ、分かるものとして、何やら小難しげな話をされていると、国家機密に関わりかねないために、出るに出られないところではある。
 だからといって、飲み物の一つも出さないのは、それはそれでそっけなさ過ぎる気もするのだが…。
「うーん…」
 思わずうなったところへ、
「ジェーン…」
 後ろから、声を掛けられたのは、そのときだった。
「! 副船長!?」
 意味もなく気配を絶って現れられても、困るのだが。
「…何やってるんだ?」
「入るべきか、入らないべきか、悩んでるところよ。…ところで、あの子供は?」
 拾ってきた混血児の事を尋ねると、ローブの青年は軽く肩を竦める。
「…サキがみてる」
「あ、それならいーのね」
「ねーさんが居てくれると、もっと助かる」
「分かったわ」
 言外に言わんとしていることを悟って、ジェーンは、素直に踵を返しかけた。
「…ごめん」
 背後の声に、思わず笑う。
「別に、気にしちゃないわよ。それより、中にアルフェリア居るけど、あんたこそ、がんばってね」
 笑みを含ませて投げかけると、見えないはずのローブの中の表情が、手に取るように分かった、気がした。

* * *
 | Back | 目次 | Next | HOME | 
Base template by WEB MAGIC.   Copyright(c)2005-2015 奇術師の食卓 紫苑怜 All rights reserved.