――海賊船船長室
ロイドの部屋の扉が叩かれたのは、海賊船の船長室を沈黙とため息が一通り通り過ぎたころだった。
「入っていーぞ」
ロイドの暢気な声に応じて、扉の向こうから現れたローブの青年は、ゼルリアの将軍達の会釈をそっけなく受け流して、さっさと席につく。
「相変わらず、アイソねーのな」
「まあまあ」
口を尖らせたアルフェリアを、ロイドが取り成して、海賊の首領は自分の片腕を省みた。
「ミルガウスの石版が盗まれたんだ。で、昼間の出来事からして、ここにあるんじゃねーかって、そーゆー話になってる」
「…」
「どー思う?」
三者の視線が一挙に集中した、その先で、青年は淡々と答えた。
「石版を一箇所に集めるメリットは少ない」
「お前、そりゃ本末転倒だろ」
「もし、一箇所に集めるなら、それは強大な『負』の力を一箇所に集中させたいときだけだ」
アルフェリアの苦々しいつっこみは、さらりと流して、続きを紡ぐ。
「強大な、負の力、…ですか」
「魔王とかか?」
深刻なベアトリクスとは対照に、無責任に呟くロイド。
「魔王ってよ…おいロイド」
「やー冗談だって」
「光と闇の陵墓…」
男たちの突っ込み合いに、差し出されたのは、女将軍の一言だった。
光と闇の陵墓。
天使と魔族が地上でぶつかりあった第一次天地大戦において、天使イオスと魔王カオスが、互いに互いを刺し貫いて果てた場所。
そして、その魂は地上に散らばり、以後各地で眠りに付く事となった…。
「やー…だって、話が突飛すぎるだろ」
「可能性の一端です」
「…もし、昼間の襲撃がフェイクだったら?」
「…?」
「何で、石版なんてものが、すぐ近くにあるのに、下級の雑魚しか寄ってこなかったのか…迎撃できる程度のものだったか…」
「何が言いたい、根暗」
アルフェリアの誰何は、鋭く、ローブは一旦口を閉じた。
「…」
「確かに…石版がまとめて近くにあるのならば、もっと上位の魔族たちまで寄せられていても、おかしくありませんでしたね…」
「ベアトリクスまで、何言い出すんだ」
続いた同僚の言葉に、ゼルリアの将軍は、いらいらと爪を噛んだ。
「てめーら、結局何が言いたいんだ?」
「…まあまあ、アルフェリア。あらかじめ最悪を想像してたら、何が起こったって、平気だろ」
微妙な空気をロイドがほぐす。
「…まあ、いーんだけどよ」
肩を落として、彼は言った。
「じゃあ、つまり最悪、オレらが想像もおよばねーよーな何かが、後ろで糸引いてるって…そーゆー事が言いたいのか?」
「まあ、そうじゃないに越したことはないですがね」
「で、結局よー、じゃあ、例えば何が後ろにいるんだろーな」
「可能性としては…」
と、ローブはまたもあっさり、今日び何度目かの爆弾を口にした。
「七君主」
いささかの、空白。
「…」
「…」
「…」
「「「何ぃ!?」」」
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