Lost Words
    神は始め、天地を創造された。「光あれ。」――こうして、光があった。
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  第六章 赫き贄は謳う 
* * *
――アレントゥム自由市 港



「こりゃあ…ひでぇな…」
 あの崩壊の後、夜の海にボートを浮かべ、岸にたどり着いたロイド達は、思わず呻いた。
 ボートに乗る人数が限られているため、その場にいるのは、ロイド、副船長、そして、ゼルリア将軍の二人。
 他の海賊達は、船で待機している。
 ――あちこちに、血の臭い、肉が焼ける臭い、うめき声…。
 半死半生の苦しみの声が、アレントゥム中を覆っているようだった。
「…生きている人は…早く、助けなければ」
「他の場所の状況が知りてぇが…」
「………」
 真剣な表情で言い合う将軍たちを横において、一人瓦礫のアレントゥムに踏み出した副船長は、そのまますたすたと闇に紛れていこうとする。
「って、おい。どこいくんだよ、副船長」
 のんびりと声を掛けたのは、ロイド。
 青年の問いかけに答えて、ローブは指を上げる。
「…あそこ」
「あん?」
「あっち…光と闇の陵墓から、魔の気配がした。…見てくる」
「え、見てくるって…! オイ、一人じゃアブね…」
 ロイドが止める間もなく、ローブは闇に消えていった。
 その後を追おうとするロイドを止めたのは、アルフェリア。
「ったくしょーがねーヤツだな。…オレが付いてくわ。あんたは、ベアトリクスと一緒に街を頼む」
「…ああ」
 ローブの後を小走りに追っていくアルフェリアも、また闇に紛れていく。
「…では、私たちは救助を」
「そうだな」
 どこか後ろ髪引かれるようではあったが、ベアトリクスの言葉に、ロイドも大きく頷いた。
「よっし、ばりばりたすけっぞー」
 気合を入れて、彼らも廃墟と化した町に踏み出して行った。


――アレントゥム自由市 『光と闇の陵墓』



「うっわ…」
 前後を魔族に迫られて、さすがに逃げ場のないティナは口の中で呻いた。
 体力は既に限界。
 魔法を唱えている暇は無い。
 ――さて、どうする…?
 あきらめにも近い心地で、それでも彼女は剣を構える。
 その時、

――フウン…。空間ヲ焼キキレル 人間ナンテ 珍シイ ネ。

 声が、した。
 頭の中に、直接。

「…え?」
 自分の頭を抑えて、ティナは呟く。
 少々発音は怪しいが、その清涼な声色は、カイオス・レリュードのものだった。

――丁重ニ オモテナシ シナキャ…ネ。

 その瞬間、視界がゆがんだ。
「!?」
 奇妙な浮遊感は一瞬、再び足が地に付いたときには、ティナは思わず一瞬よろけて、しかし素早くあたりを見回す。
 ――広い部屋だった。
 ミルガウスで通された王の謁見の間ほどはあるだろうか…。
 だだっ広い天井。
 だだっ広い床。
 四角い部屋の壁の至るところに、いくつもの扉が張り付いている。――どうやら、遺跡の中の道は、回りまわってここに通じているようだった。
 からからに渇ききっていて、なにもない空間だった。
 そして、その中心に、『彼』は居た。
 人が一人転げられるほどの大きさの、台座のようなものを背後にしている。
 台座には…遠目にしかしはっきりと、石の欠片が、六つ。
 投げ出されるように、置かれていた。
 それを悟ったティナの懐が、ざわめく。
 思わずそこに手をやった。
 カイオス・レリュードから託された、最後のひとかけら。
 闇の石版の欠片同士が、呼び合っているのか…。
 息を詰めて、ティナは石版の置かれた台座の前に立ちふさがる人影に、改めて目をやった。
 さらりとした金色の髪。
 線の細い体躯。
 はっとするほど端正な顔に、――そこだけ不自然に感じる…赫い…真っ赤な、瞳。
 真っ赤な瞳…――魔族の、証。
「ヤア、オ嬢サン。コンニチワ」
 彼女の良く知った顔で、彼女の良く知った声で。
 男は、彼女の全く知らない不気味な笑みを浮かべてみせた。
 鳥肌が、立つ。
 男のまとう、異様な存在感、強大な魔力。
 そして、その雰囲気の禍々しさに…
「…あんた…」
 唾を飲み込んで、渇いた喉を震える声が伝う。
 にやりと笑って、男は手を広げてみせた。
「ココハ、光ト闇ノ陵墓ノ、中心。『イオス』 ト 『カオス』 ガ、死ンダ場所。僕ハ、『ダグラス・セントア・ブルグレア』。――別名、七君主マモン」

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