Lost Words
    神は始め、天地を創造された。「光あれ。」――こうして、光があった。
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  第八章 彼を求めて 
* * *
――現在 アレントゥム自由市



「――という感じで、まあ、彼女には多少面識があった、というわけですのよ」
 全てを語り終えて、ジュレスはふっと息をついた。
 へえ、と呟くウェイの隣りで、青年は釈然としない表情を隠そうともせず浮かべているが。
「――まあ、思い出話はこのくらいにして、どこに行きますの? ええと――」
「ダグラス、だ」
 青年に語りかけると、彼は憮然とした表情で答えた。
 にっこりとその返事を受けて、ジュレスは改めて青年を呼ぶ。
「ダグラスさん?」
「会いたい人がいるっていってたわよねえ」
「その方を探すって…復讐したいって言ってらしたけれど、そんなにひどい目に遭わされましたの?」
「…ああ」
「まあ、ひょっとして、愛のいざこざじゃない?」
 こくりと頷くダグラスにの言葉に、ウェイがすかさず割り込んだ。
 こうなると女たちには馴染みの深い話題で、結果的に青年は少々問い詰められる格好になってしまった。
 ――といっても、彼には何の話題を振られているが、大して分かっていないのであるが。
「あら、そんなに悔しがるほどに、その人を思っていたんですのね…」
「待って、さっきの言い方からすると、きっと手ひどく裏切られたんじゃない!?」
「そうですわね! まったく…こんなに外面のいい男を振るなんてどんな方?」
「…ちなみに、そいつは男だぞ」
 それも、彼ととてもよく似た面構えの。
 ダグラスは、ぼそりと差し挟むが、かえって彼女たちの話に勢いを与えてしまっただけに終わった。
「男性!!」
「これは…禁断の…ってやつね」
「? 何の話をして…」
「何も言わないで! 分かってる…あんたも、大変だったのね…」
「あなたの思いが、いつかきっと報われることを祈っていますわ!」
「おい…」
 完全に取り残されたダグラスは、呆れた視線を女たちに振り向けながら、しかしふっと空を見上げた。
 暮れていく大気の、深まっていく冷気を見据え、口の中で呟く。
 覚えていろよ。失敗作。
 必ず――必ず、オレが――
「殺してやる」
 ぼそりと口の中で音にした言葉は、幸運なことに、彼女たちには届かなかった。
「さて…あなたの悲しい過去も分かったことだし、とりあえず宿に戻りましょ!」
「そうですわねー。久々に属性魔法なんて奮発したから、疲れましたわー」
「アレ、けっこうきついもんがあるわよねー」
 弾んだ会話を交わしながら、ジュレスもウェイも先に立って歩き出す。
(やれやれ)
 ため息混じりに、ダグラスも歩きだそうとしたとき。

――………ラス。

 不意に、背後から呼びとめられたような気がして、彼は歩みを止めた。
 後ろを振り返るが、誰も居ない。
 否――。

――ダ・グ・ラ・ス………。

「!」
 生暖かい風が、びゅうと耳の傍を吹き抜けていく。
 覚えのある感覚。
 彼の主の声。
 はっと反射的に跪いて、彼はその名を呼んだ。
「七君主…マモンさま…」

――久々ダネ…生キテイタヨウデ…ナニヨリダヨ。

「勿体ない、お言葉です」
 恭しく、頭を垂れる。
 周囲の奇異の視線など、彼にとってはどうでもよかった。
「しかし、七君主さま…少し…力が…――」

――チョット不覚ヲトッテシマッテネ…。力ガ戻ラナインダ…

「おいたわしい…」

――ソレデ君、チョット頼マレテクレル?

「何なりと」
 ダグラスは、厳かに、その言葉を聞き入れた。
 熱砂の国の、地下空洞に、あの『失敗作』を連れて来い、と。
 そこで、待っている、と。

――連中ハ、ルーラ国ニ向カッタミタイダ。マア、ガンバッテ連レテキテヨ。

「仰せのままに」
 彼の頭にだけ響き渡る思念が途絶えてから、彼は、すっと立ち上がった。
「ふ…ふふふふ」
 ルーラ国か。
 いい知らせをいただいた。
「ふ…ふはは…はははははは!!」
 街の人々が、不審そうに振り返っていく。
 ジュレスやウェイも。
 だが、ダグラスは構わなかった。
 彼はそのまま、空に向かって、笑い続けたのだった。

* * *
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