Lost Words
    神は始め、天地を創造された。「光あれ。」――こうして、光があった。
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  終章  
* * *
――ルーラ国 歓迎の港ブランジュール



「じゃ、オレたちはこの町で待ってるから! しっかりやってきな!」
 青い海、吹き抜ける南国の風。
 ゼルリアやミルガウスに比べて、大分温かい空気の下、船を港に寄せて、ロイドは爽やかに見送ってくれた。
 下船するのは、ティナ、クルス、アベル、カイオス、アルフェリア、そして、ジェイド。
 それぞれにとびきりの笑顔を送って、船員――といっても、副船長を除くと七人の船だったが――総出で見送ってくれる。
「ありがとう!」
 すっかり風邪も回復して、元気イッパイ爽やかに、ティナは手を振り返した。
 ここから、二手に分かれ、一方はルーラ国首都レイシャーゼに、もう一方は、一旦北上して隣接するミルガウス国の南方守護府にいき、堕天使の聖堂に入るための許可印をもらいにいく、という形になる。
 ミルガウスとルーラの印、その二つが揃って始めて、あのやたら人を殺したがる聖地の『番人』とやらに運悪く鉢合わせても、見逃してくれるという契約が発動するのだ。
 ミルガウスとルーラの両国の印が、なぜ二つなければならないかといえば、それは簡単で、単に聖地を通る許可を出した人間の照合をしやすくするためだ。
 盗賊たちや不正な取引も、ある程度防ぐことができる。
 その分手続きに手間がかかってしょうがないが、それはそれ、仕方がない。
「ま、すんなりいくといいけどねー」
 ティナは、楽観的に呟く。
 『堕天使の聖堂』。
 思えば、『現在』の『彼女』の、始まりの地だ。
 その前の自分の人生に、何が起こったのか、まったくわからない。
 ただ。
 予知と思われるような夢。
 聖地の番人と対峙したときに、一瞬過ぎった、赤い色の過去。
 そして、『火の属性継承者』という、紛れもない事実。
 生活する程度に困らない――たとえば自分の名前のような――ことは思い出せているので、それはそれでもういいかな、とも思うのだが。
 時々不安でしょうがなくなるときもある。
 『全て』を思い出したとき。
 自分は、『自分』でいられるのか。
(まあ)
 ティナは、ふ、と息をつくと、無理に唇を引き締めた。
「そのときはその時、よね」
 今は、とりあえずやらなければいけないことがある。
 砕け散った闇の欠片。
 彼女が『彼女』になってから、ずっと関わってきたもの。
 いい加減縁を切りたいものではあるが――まあ、ここまでくるととことん付き合おうじゃないか。
「また、ここに戻ってきたのね」
 小さく言うと、クルスが振り返った。
 そんなに大きな声を出したつもりはなかったが、意外に耳ざとい相棒は、はっきりと音を拾っていたらしい。
 にゃはは、ととびきりの笑顔で、ティナに笑った。
「そうだね。ティナ! また戻ってきたね」
「あのころとは大分違うけどね」
 自分で言ってから、確かにそうだと改めて納得する。
 あのころは――自分で戦う術も知らず、状況に振り回されてばかりで、一人では何もできなかった。
 不死鳥召喚という『偶然』に助けられたものの、相棒を死なせてしまっていても、おかしくない状況だった。
 その頃の自分に比べれば。
(今は、少しは違う)
 少なくとも、自分の身くらいは自分で守ることができるようには、なった。
 少なくとも、足手まといになるようなことはなくなった。
 だから。
「ま、ぼちぼち行きますか」
「そうだねー」
 ティナがにっと笑うと、クルスもにっと笑う。
 南のルーラの太陽が、やさしくそれを見守っていた。

閑話 波間に揺れる挿入歌 完

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