――???
誰かが、泣いていた。
声をあげて。
泣いていた。
「っ…」
少年が泣いていた。
小さい手に覆われた、青白い痩せた顔。
ぱさぱさに乱れた、褪せた色の金の髪。
暗い闇の中に、ただ一人立ち尽くして。
彼は、ずっと泣いていた。
(どうしたの?)
ティナは、手を伸ばそうとする。
どこから歩いてきたんだろう…
いつの間にか歩いてきて、たどり着いていた。
そんな場所に、彼女には思えた。
(あんな…痩せて)
がりがりの身体には、ぼろ服がかろうじてひっかけられている。
垢にまみれた素肌から、無数の傷跡が覗いている。
治りかけのもの、傷に血がにじんだもの、深く跡が残ったもの――驚くほど、無数に。
そして。
(…え?)
目を凝らしていたティナは、ふと、『そのこと』に気が付いた。
少年の骨の浮いた肌に走る、数多の傷。
そこに流れる血が。
明らかに、『彼』だけのものではなかった。
そのことに。
彼女はなぜか気付いた。
――気付いてしまった。
(誰か…殺したの?)
何の脈絡もなく、そう思う。
そう思ったとき。
今まで『少年』しか見られなかった視界に、何か別の影が映りこんだ。
地面に転がる。
ありえない方向にぐったりと身を投げ出した――斬り裂かれた死体。
(…!!)
はっと息を呑むティナの眼前で、少年は泣いている。
声さえも。
かけることができない。
地面に転がった死体は、同じように。
青年のもつ、褪せた金の髪を持っていた。
「っ…」
少年は、泣いていた。
泣きながら。
彼は、震えていた。
(はじめて…殺したの?)
再び何の根拠もなく。
ティナはそう思う。
そして、そこに妙な確信があった。
不自然な光景の中で。
彼女はじっと、暗闇のなかに目を当て続けた。
そのとき。
(!?)
こちらに気付かない――気付いていない、と思っていたその少年が。
「…」
じっとこちらを見つめていた。
「な…」
ティナは、あえぐように目を見開いた。
瞬間的に退こうとした身体は、動かなかった。
情けないことに。
「………」
すっと剣を構えた、その少年は。
否、今はもう、ティナの良く知る『青年』は。
意思のない青い瞳で、まっすぐにこちらを見据えると。
「――」
たっと地を蹴って、一気に肉薄した。
「!!」
――貫かれる!
そう、思ったとき。
――………!!
『誰か』の声が、聞こえた。
その瞬間、暗闇はすっと消え去り、ティナははっと目覚める。
その先に、目を焼く真夏の太陽が、さんさんと燃え盛り。
「あ…」
シェーレンの砂漠のど真ん中で、ティナは『夢』から覚め、うっすらと目を開いた。
|