Lost Words
    神は始め、天地を創造された。「光あれ。」――こうして、光があった。
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  第三章 それぞれの思い 
* * *
――???



 誰かが、泣いていた。
 声をあげて。
 泣いていた。



「っ…」
 少年が泣いていた。
 小さい手に覆われた、青白い痩せた顔。
 ぱさぱさに乱れた、褪せた色の金の髪。
 暗い闇の中に、ただ一人立ち尽くして。
 彼は、ずっと泣いていた。

(どうしたの?)

 ティナは、手を伸ばそうとする。
 どこから歩いてきたんだろう…
 いつの間にか歩いてきて、たどり着いていた。
 そんな場所に、彼女には思えた。

(あんな…痩せて)
 がりがりの身体には、ぼろ服がかろうじてひっかけられている。
 垢にまみれた素肌から、無数の傷跡が覗いている。
 治りかけのもの、傷に血がにじんだもの、深く跡が残ったもの――驚くほど、無数に。
 そして。

(…え?)

 目を凝らしていたティナは、ふと、『そのこと』に気が付いた。
 少年の骨の浮いた肌に走る、数多の傷。
 そこに流れる血が。
 明らかに、『彼』だけのものではなかった。
 そのことに。
 彼女はなぜか気付いた。
 ――気付いてしまった。

(誰か…殺したの?)

 何の脈絡もなく、そう思う。
 そう思ったとき。
 今まで『少年』しか見られなかった視界に、何か別の影が映りこんだ。
 地面に転がる。
 ありえない方向にぐったりと身を投げ出した――斬り裂かれた死体。

(…!!)

 はっと息を呑むティナの眼前で、少年は泣いている。
 声さえも。
 かけることができない。
 地面に転がった死体は、同じように。
 青年のもつ、褪せた金の髪を持っていた。

「っ…」
 少年は、泣いていた。
 泣きながら。
 彼は、震えていた。

(はじめて…殺したの?)

 再び何の根拠もなく。
 ティナはそう思う。
 そして、そこに妙な確信があった。
 不自然な光景の中で。
 彼女はじっと、暗闇のなかに目を当て続けた。
 そのとき。

(!?)

 こちらに気付かない――気付いていない、と思っていたその少年が。
「…」
 じっとこちらを見つめていた。
「な…」
 ティナは、あえぐように目を見開いた。
 瞬間的に退こうとした身体は、動かなかった。
 情けないことに。
「………」
 すっと剣を構えた、その少年は。
 否、今はもう、ティナの良く知る『青年』は。
 意思のない青い瞳で、まっすぐにこちらを見据えると。
「――」
 たっと地を蹴って、一気に肉薄した。
「!!」
 ――貫かれる!
 そう、思ったとき。



――………!!



 『誰か』の声が、聞こえた。
 その瞬間、暗闇はすっと消え去り、ティナははっと目覚める。
 その先に、目を焼く真夏の太陽が、さんさんと燃え盛り。
「あ…」
 シェーレンの砂漠のど真ん中で、ティナは『夢』から覚め、うっすらと目を開いた。

* * *
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