「ふうっ…」
「お前…何気にすげえよなあ」
「何がー?」
鉄で出来ていた――彼らを閉じ込めていた檻が、しゅうしゅうと焼けた面を見せて崩れている。
クルスの雷魔法が直撃したのだ。
至近距離で放たれた雷撃は、だが自分たちをかすることもなかった。
アルフェリアは、内心ため息をつく。
魔法には興味のない自分にも分かる。
その制御の難しさと、攻撃魔法の密度の高さ。
「お前…そのまま七君主倒しちまえよ」
「ふえ?」
少年は、ふさふさの髪を揺らす。
なんでもない風をして、ここまでの実力を持っている。
さすがは、あの不死鳥を操る女の相棒、か。
(けど、十才だぞ…)
砂漠でそこの辺りを質そうとしたとき、少年の目に暗い光が宿った。
ワケありか。
まあ、『ワケ』もないのに、こんな子供が旅などしないか。
「…るふぇりあ…。アルフェリア?」
「おお」
心配そうにこちらを覗き込むクルスの声で、彼は我に帰った。
「じゃあ、行くか」
「ティナは、どこにいるかな…無事なのかな…」
「さあな」
酷だと思ったが、そんな自分が認めた人間に、楽観的な見解を言うことはできなかった。
ただ、後は無言で通路の奥を指し示す。
頷いて踏み出したクルスにならび、将軍はぼそりと呟いた。
「まずは…武器を探すか」
「そうだね」
頷いて駆け出した彼らは、狭い通路を抜け、石道に差し掛かったとき、ぴたりと動きを止めた。
「これは…」
「…」
悄然と呟いたのは、アルフェリア。
大きな目を見開いて、じっと前を見つめたクルス。
その二人の視線の先に。
「………」
幾人もの、カイオス・レリュードが、わらわらと立ちふさがっていた。
「これは…」
「光と闇の陵墓で、同じような人たちと、戦ったよ」
「そうなのか」
「うん」
アルフェリアはクルスを見たが、クルスは視線を外さなかった。
思いつめた様子で、淡々と語る。
「七君主の、人形たちだって…そう、聞いたよ」
「…」
「七君主の言うなりの、『人形』なんだって」
「そうか」
それを見つめながら、クルスが何を考えているのか、アルフェリアには分かった。
おそらく、『現在』、そうなっているあの男のことを考えてでもいるのだろう。
「気は抜くなよ」
「うん」
「とりあえず、突破するぞ。ティナを探すのは、それからだ」
「うん」
他のことに気を取られていて、本来の持ち味を発揮できない、というのは、この場合相手の数と大体の戦闘能力を考えると、命取りになるおそれが大きかった。
クルスは、子供なりにすごいといっても、所詮は、子供だ。
一応釘は刺しておいて、ゼルリア国の将軍は、自らが一歩前に出た。
「行くぞ」
低く呟いた自身の言葉を皮切りに、彼は、たっと地を蹴った。
■
『来る…』
「来るって、誰が?」
『彼と…その、分身が』
がたがたと震える少年の青い瞳が、おびえていた。
先ほどまでの、泉のような穏やかな落ち着きは、その中になかった。
子供独特の幼さと、紛れもない恐怖が、青い湖面をさざめかせていた。
「えっと…大丈夫?」
『ダメだ…危ない…!!』
「え?」
暗い瞳には、『死』の恐怖があった。
ワケが分からない。
首を傾げたティナは、次の瞬間、はっと身構える。
乾いた通路の最中。
突然、『空中』から、人が現れた。
「…!!」
『……』
観念したように目を閉じた少年の隣りで、ティナは息を呑む。
そこには、幾人もの――意思なき『ダグラス』が、立ちふさがっていた。
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