Lost Words
    神は始め、天地を創造された。「光あれ。」――こうして、光があった。
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  第五章 カイオス・レリュードの亡霊 
* * *
 ――ソウカ…。君ガ ソコマデ ヤラレルナンテ…ネ。

「申しわけありません…」
 ローブの男に吹き飛ばされた片腕は、無残に血の跡を残して斬り取られている。
 魔力で止血しながらも、その顔は苦々しく歪んでいた。
 険しく影を刻んだ柳眉は、幾筋もの汗を浮かべている。
 失態と、屈辱。
「まさか…あのようなことが…」

――イイワケ カイ?

「は、は…あの」

――イイヨ。話シテゴラン。

「それが…あの女を手にかけようとした瞬間に、突然得たいの知れない光が――」

――光…。

 七君主は、気のなさそうにその話を聞いていた。
 虚空を見上げ、赤い目を細める。

――分カッテル? 君ハ…。役ニタタナケレバ、『意思ノナイ兵隊』タチト 一緒ナンダヨ?

「は…」

――イイヨ。地下牢ノ人質タチモ ニゲダシタヨウダシ…

「な…!!」

――僕ガ ココニ導コウ。コノ遺跡ノ中ニイル 全員ヲ集メヨウ…。『ショー』ヲシヨウ。今度コソ。アノ女ヲ…。屈辱的ナ方法デ、殺スタメニ。

「………」

――人形タチヲ 使ッテ…。ココニオビキ寄セル…。ソシテ…『不死鳥』ニトドメヲ…!!

 くつくつと、七君主は笑う。
 それは、虚空に渦巻きながらも、立ち尽くす『意思あるダグラス』の四肢をゆるやかに絡めて行った。
 蛇が獲物を捕らえるように。
 生贄を捕らえるように。

――君ハ…ソコデ見テイルト イイ。

「は…」

――フフ…。

 死に絶えた都の地下墓地、その中央にある空洞は、人工的に整然としてして、心地のよい広さを持っていた。
 王墓と呼ばれる場所で、石板を握り締め。
 赤い目を細めた『ダグラス』は、くつくつと笑った。
 笑い続けた。

――フフ…。

 その視線は、じっとダグラスの背後に立ち、言葉なく立ち尽くしている『カイオス・レリュード』に注がれていた。
 その瞳の奥にある『無』を穿つように。


――???



 『どうして…』

 『彼』の眼前に立った紫欄の瞳を持った女は、愕然とした表情と強い光の瞳を向けて、彼を刺し貫く。
 泣いて喚いて叫び倒すよりは性に合った死に方を選ぶ。
 そんな女だろうと、そんな印象は持っていた。
 七君主に持ちかけられて、ミルガウスの鏡の神殿から石板を持ち出した直後。
 宮殿に火を放ち、かく乱を謀ったその場に、彼女は居合わせた。
 始めの印象がよかったわけでは決してなかった。
 アクアヴェイル人がミルガウス国の高位についているが筈がないという、思い込みがあったのか、千年竜の紋章をみせても得体の知れない呼称で呼ばれ続けた。
 拘留した彼らにアレントゥムへの同行を持ちかけたのは、だました負い目があったわけでもなく、単純に石板を持った人間を近くにおいておくため、くらいの意味しかなかった。
 それが、その後の世界の命運を決定的に変えたわけだったが――



『なんで…あんたが』

 過去の幻影が、愕然と彼の姿を映している。
 石板を持ち出した後に、アレントゥム自由市の遺跡『光と闇の陵墓』の前で対峙した。

――殺してしまえよ。

 立ち尽くした女の声にかぶさるように、暗闇の中で、声が響く。
 それは、暗闇の中で『彼』の思考を制限した。

――殺せ。

『どうして…』

――殺せ。

 耳障りだった。
 闇を深々と切り裂く命令は、絶対的な強さで四肢を拘束した。
 『彼』は、手を上げた。
 女に対して、構えを取った。

『何で』

――殺せ!

 女の顔は歪んでいる。
 泣きそうなほどに。
 それでも、『彼』は剣を突きつけた。
 声の言うままに、たっと地を蹴った――

* * *
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