Lost Words
    神は始め、天地を創造された。「光あれ。」――こうして、光があった。
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  第七章 水の属性継承者 
* * *
――暗く深く、覚めない闇の中で、『夢』を見ていた。



 ひたすらに。



 『巫女さま』。

 そう呼ばれていた。
 不死鳥憑きの巫女。
 だが、彼女の目の前にあったのは、硬い鉄格子。

 『なぜ』そうなのか。
 分からなかった。
 ただ、食べて、寝て。
 格子の向こうの明るさで、時が過ぎていくのを知る。
 わたしは、――『生きて』いるのだろうか。



 もしも、この生活が続くのならば、別にそこに意味なんて見出すこともできないと思っていた。
 ただ、一人の少年が、心の支えだった。
 『巫女さま』と呼ばれ、閉じ込められた自分の下に、毎日通ってくれる少年。
 自分に話をしてくれる。
 自分と話をしてくれる。



 鉄格子から出たのは、随分と先の話。
 そして、そこにあふれていたのは――。



 炎の腕に、包まれて。


「――っ」

 深く暗く、覚めない夢の中で、彼女は声のない叫びを上げた。
 それは、ぞっとするような光景だった。
 『ただ、生きているだけ』。
 なんて、つらいことなんだろう。
 いつかの夢で見た少年の姿が、だぶって見えた。
 なんて――なんて、つらく、哀しいことなんだろう。

 黒い闇が、心を蝕んでいく。
 覚めない夢に捕らわれていく。
 もう、自分を支えてくれた温かい光の波動さえ、感じられない。
 溶けていく――沈んでいく。
 見えない『過去』の果てない闇に捕らわれて。

「………」

 さまざまな、光景を見た気がする。
 それは、哀しい景色だった。
 色鮮やかな、記憶の欠片の数々。
 けれど、つかむ前にその手をすり抜けて行き、彼女の中には何も残らない。
 ただ、通り抜けていく波の中で、そのとき『確かに』感じた様々な感情の残り香だけを抱きしめて、彼女は彷徨っていた。

 それも――もう、限界だ。
 呑まれていく――。
 はっきりと、それを感じていた。
 一度呑まれたら――二度と出られない夢魔の闇。

「………」

 せめてもう一度、と彼女は震える唇を動かした。
 せめて、最後に。
 あの言葉を、自分が言ってしまったひどい言葉を――彼に謝りたかった。

 思いは途切れ、意識は黒に染まっていく。
 抗うには気力は尽き、闇の力はあまりに増していた。
 四肢を押さえつけられるかのような感触。
 引きずり込まれていく。
 だが――それが、ふと、緩んだ。
 闇の力が――弱まったのを、感じた。



「――?」

* * *
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