――暗く深く、覚めない闇の中で、『夢』を見ていた。
ひたすらに。
■
『巫女さま』。
そう呼ばれていた。
不死鳥憑きの巫女。
だが、彼女の目の前にあったのは、硬い鉄格子。
『なぜ』そうなのか。
分からなかった。
ただ、食べて、寝て。
格子の向こうの明るさで、時が過ぎていくのを知る。
わたしは、――『生きて』いるのだろうか。
もしも、この生活が続くのならば、別にそこに意味なんて見出すこともできないと思っていた。
ただ、一人の少年が、心の支えだった。
『巫女さま』と呼ばれ、閉じ込められた自分の下に、毎日通ってくれる少年。
自分に話をしてくれる。
自分と話をしてくれる。
鉄格子から出たのは、随分と先の話。
そして、そこにあふれていたのは――。
炎の腕に、包まれて。
■
「――っ」
深く暗く、覚めない夢の中で、彼女は声のない叫びを上げた。
それは、ぞっとするような光景だった。
『ただ、生きているだけ』。
なんて、つらいことなんだろう。
いつかの夢で見た少年の姿が、だぶって見えた。
なんて――なんて、つらく、哀しいことなんだろう。
黒い闇が、心を蝕んでいく。
覚めない夢に捕らわれていく。
もう、自分を支えてくれた温かい光の波動さえ、感じられない。
溶けていく――沈んでいく。
見えない『過去』の果てない闇に捕らわれて。
「………」
さまざまな、光景を見た気がする。
それは、哀しい景色だった。
色鮮やかな、記憶の欠片の数々。
けれど、つかむ前にその手をすり抜けて行き、彼女の中には何も残らない。
ただ、通り抜けていく波の中で、そのとき『確かに』感じた様々な感情の残り香だけを抱きしめて、彼女は彷徨っていた。
それも――もう、限界だ。
呑まれていく――。
はっきりと、それを感じていた。
一度呑まれたら――二度と出られない夢魔の闇。
「………」
せめてもう一度、と彼女は震える唇を動かした。
せめて、最後に。
あの言葉を、自分が言ってしまったひどい言葉を――彼に謝りたかった。
思いは途切れ、意識は黒に染まっていく。
抗うには気力は尽き、闇の力はあまりに増していた。
四肢を押さえつけられるかのような感触。
引きずり込まれていく。
だが――それが、ふと、緩んだ。
闇の力が――弱まったのを、感じた。
「――?」
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