Lost Words
    神は始め、天地を創造された。「光あれ。」――こうして、光があった。
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  第五章 小休止〜過去を知る者の涙〜 
* * *
――ミルガウス王国王城 王の間



 宮城の百官がかつて跪いていた部屋には、今や王者しか存在しなかった。
 あの日――全てが、終わってしまった。
 四人の子供たちが、いつも通りに遊んでいた最中のことだった。
 彼らの秘密の遊び場には、長く砕け散っていた間に、七君主という『力』を醸成していた、七つの石の欠片があった。
 封印を、施されていたはずだった。
 そのものが安置されていた神殿には、強固な結界が施されていたはずだった。
 ――しかし。
 あの日、扉は開き、闇の力は再び砕け散ってしまった。
 あの日から――永遠の大国は、静かに、確実に、狂い始めていった――。

「………」
 王は一人、深く息をついた。
 長い、年月だった。
 一人、また一人。
 国を支えてきた人々は、ある者は城を追われ、ある者は死地へと追いやられてしまった…。
「………」
 一人、じゃのう。
 そう、王は一人ごちた。
 彼は先王の二番目の息子だった。
 長子を差し置いて、王位の継承を命じられたときから、その道を一人で歩むと決めていた。
 だが、それは、予想していたよりも、遥かに険しい道のりだった。
 昔は、共に歩む臣下がいた。
 今は――
(バティーダ…)
 彼は、病死した自分のかつての右腕を呼んだ。
 老人がもしも生存していれば、今の王の有様を見てなんと言っただろうか。
 ――まだまだですな、と諫めただろうか。
(わしは、一人じゃのう)
 臣下は消え、継承者も消えた。
 全ては――仕組まれたかのように、整然と。
 皆自分の周りから、いなくなった。
「………」
 王は、深い吐息をついた。
 ふと、目を上げると、誰もいない謁見室に、一人の女が立っていた。
「ごきげんよう、『お父様』」
「そなたか」
「ふふ」
 艶やかな笑みを浮かべた、王位第三継承者『カオラナ』は、優雅に礼を取ってみせた。
「何か、用かの?」
「ええ。ちょっとしたご報告に」
 滅多に人前に姿を現さない娘の前で、王はしばしの沈黙を挟んだ。
 カオラナは、さらりと笑んだ。
 それは、美しい微笑だった。
「――探し物を見つけました。過去の、遺物を」
「何…」
「私の『正体』を知る者。王位『第一』継承者」
「………」
 消して、よろしいわね? そう、彼女は囁いた。
 王は、黙して語らなかった。
 それは、肯定の証として、相手に受け入れられた。
「では」
 そういい置いて、女は消えた。
 王は、一人、深く息をついた。
 王位『第一』継承者、フェイ。
 石板決壊の罪をかけられた、自らの不明を嘆いて死ぬと国王に叩きつけ、そのまま崖へと転落していった――当時、たったの七才だった彼の養子。
 彼もまた、遥か昔に自分の前から姿を消した者だった。
「やはり、生きておったか…正統なる、ミルガウスを継ぎし者よ…」
 王の言葉は、誰もいない謁見の間に、響くように渦巻いて、やがて消えていった。

* * *
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