――ミルガウス王国王城 王の間
宮城の百官がかつて跪いていた部屋には、今や王者しか存在しなかった。
あの日――全てが、終わってしまった。
四人の子供たちが、いつも通りに遊んでいた最中のことだった。
彼らの秘密の遊び場には、長く砕け散っていた間に、七君主という『力』を醸成していた、七つの石の欠片があった。
封印を、施されていたはずだった。
そのものが安置されていた神殿には、強固な結界が施されていたはずだった。
――しかし。
あの日、扉は開き、闇の力は再び砕け散ってしまった。
あの日から――永遠の大国は、静かに、確実に、狂い始めていった――。
「………」
王は一人、深く息をついた。
長い、年月だった。
一人、また一人。
国を支えてきた人々は、ある者は城を追われ、ある者は死地へと追いやられてしまった…。
「………」
一人、じゃのう。
そう、王は一人ごちた。
彼は先王の二番目の息子だった。
長子を差し置いて、王位の継承を命じられたときから、その道を一人で歩むと決めていた。
だが、それは、予想していたよりも、遥かに険しい道のりだった。
昔は、共に歩む臣下がいた。
今は――
(バティーダ…)
彼は、病死した自分のかつての右腕を呼んだ。
老人がもしも生存していれば、今の王の有様を見てなんと言っただろうか。
――まだまだですな、と諫めただろうか。
(わしは、一人じゃのう)
臣下は消え、継承者も消えた。
全ては――仕組まれたかのように、整然と。
皆自分の周りから、いなくなった。
「………」
王は、深い吐息をついた。
ふと、目を上げると、誰もいない謁見室に、一人の女が立っていた。
「ごきげんよう、『お父様』」
「そなたか」
「ふふ」
艶やかな笑みを浮かべた、王位第三継承者『カオラナ』は、優雅に礼を取ってみせた。
「何か、用かの?」
「ええ。ちょっとしたご報告に」
滅多に人前に姿を現さない娘の前で、王はしばしの沈黙を挟んだ。
カオラナは、さらりと笑んだ。
それは、美しい微笑だった。
「――探し物を見つけました。過去の、遺物を」
「何…」
「私の『正体』を知る者。王位『第一』継承者」
「………」
消して、よろしいわね? そう、彼女は囁いた。
王は、黙して語らなかった。
それは、肯定の証として、相手に受け入れられた。
「では」
そういい置いて、女は消えた。
王は、一人、深く息をついた。
王位『第一』継承者、フェイ。
石板決壊の罪をかけられた、自らの不明を嘆いて死ぬと国王に叩きつけ、そのまま崖へと転落していった――当時、たったの七才だった彼の養子。
彼もまた、遥か昔に自分の前から姿を消した者だった。
「やはり、生きておったか…正統なる、ミルガウスを継ぎし者よ…」
王の言葉は、誰もいない謁見の間に、響くように渦巻いて、やがて消えていった。
|