――死に絶えた都 ???
「っ…」
ティナは、拳を握り締めた。
踏みしめる石の床が、ぐらつきそうな錯覚を覚えた。
呼吸は自然に大きくなり、乾燥した空気が、直接に喉を焼く。
死に絶えた都の、地下王墓。
向き合う敵は、石板に乗り移った七君主。傍には、意思を乗っ取られ、人質に捕られた少年がいる。
対峙する彼女のほかに、人気があるはずもなく、彼女は状況を持て余しながら、進退を決めかねていた。
ティナには、秘策があった。
今はなきアレントゥム自由市の『光と闇の陵墓』。
そこで現在のように七君主と向き合ったティナは、不死鳥を操り、それを撃退することに成功した。
その結果として、自分の命が狙われることになってしまったわけでもあったが…
(使うか…)
しかし、傍には少年がいる。
強大な魔力は、魔法を使う人間には耐性があるが、普通の人間にとっては、有毒なガスに等しい。
コントロールを間違えば、道連れにしてしまう可能性もある。
さらに、不死鳥を呼ぶためには、深い集中と、長い時間が必要だ。つまり、呪文の詠唱中は、完全に無防備となってしまい、そこを衝かれれば、たやすくやられてしまう。
せめて、自分以外にも。
誰か、場を共にできる仲間がいたならば。
(どうする…)
――ふふ…。どうしたの? 感情が 乱れているよ?
「!」
石の欠片が放った思念に、ティナはぞっとした。
魔族は心を読む。
光と闇の陵墓で対決したときにも感じた、不快感。
ぞわりと湧き上がるそれから、半ば逃げるように――ティナは無意識に呼んでいた。
自らが使役できる、最も強く、最も高貴なる幻獣を――
「命の灯よりもなお赫く…」
――…!!
石が――魔族が、身構えたのが分かった。
効いている。
ティナは、実感した。
やはり、魔族は恐れているのだ。
カイオス・レリュードを操ってまで、自分を殺させようとする、その理由。
この、特異な力を――
「逸る血よりもなお熱く」
魔力を、練り上げていく。
螺旋に舞い上がっていく螺旋の糸。
光のヴェールをまとって、そこに魔方陣を描いていく――
「古の長 分かたれし果て 汝の真たる名において」
――くそ…っ!! 止めろ!!
「!!」
石板の呼びかけに応じ、少年が動く。
無私のままに、体を駆り、ティナへと迫る。
迫る刃。
だが、ティナの呪文が最後の言葉を紡ぐ方が、わずかに早い。
「尽きぬ命の杯に 生と死と死を司る」
(イケる!)
ティナは感じた。
このタイミングなら、唱えきれる!
あと少し――もう少しで、不死鳥が呼び出せる。
――ちっ…!!
「四属の謳の在る処(ところ)」
今正に顕されん、と最後のくだりを唱えたのと、少年の刃が翻るのと。
石板が舌打ちするのが、同時だった。
「――!!!」
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