Lost Words
    神は始め、天地を創造された。「光あれ。」――こうして、光があった。
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  第四章 死者の啼く場所 
* * *
――死に絶えた都 遺跡



 話は、少し前に遡る。



 赤髪の戦鬼――ロイド・ラヴェンとローブにくるまれた姿を砂漠にさらした副船長は、眼前に広がった光景に、思わず顔を見合わせていた。
 
「なーなー、死に絶えた都…来てみたけど」
「…うん」
「すげえ、感動的なお出迎えだなー。俺らが来ること、知ってたんだろーな」
「締め上げた盗賊、口封じに息の根止めてくればよかったね」
「な?! アジトを話してくれたら、命は助けるって約束してたんだぞ! 息の根を止めたら、約束違反だろ!!」
「そうなんだけど…」
 これはちょっと…とローブの青年が指し示した遺跡の広場には、五十人を下らない数の盗賊たちが、わらわらと立ちふさがっている。
 アレが戦鬼とその右腕だ、俺たちのヤマ邪魔しに来やがった、と、既に鼻息荒く戦闘モードに突入している。
「…コレ…片すのに時間がいくらあっても、足りない気が」
「んなこと言っても始まらねーだろ。とにかくうちの船のガキを連れ返す。正面突破だ! 行くぞ」
「…たかが、『混血児』の子供一人に、そこまでしなくても」
「ソレ、もっかい言ったら、オレ、怒るからな」
「………」
「いいから、行くぞ!!」
 怒ったように、駆け出すロイドの背中を追いながら、副船長はローブの下の目を閉じた。
 二年前、『屍』のようだった自分に手を差し出した男の言葉は、まっすぐに彼を貫いた。
 ――その眼…きれーだなー、と。
 そのときの情景が、ふと過ぎった。
「………」
 前を行くロイドの獲物は、既に赤く染まっている。
 闘うというよりは、駆け抜けるといった体で、彼らは自分たちを襲い来る刃を交わしながら、遺跡の中へと踏み込んでいく。
「ロイド、守りが厚いところにいると思う」
「おうっ! そうだな」
 軽く言葉を交わした彼らは、刃が盾を貫く勢いで、突き進んでいった。
 砂の大地から、廃墟の中へ――狭い廊下に、自分たち自身が『壁』となって立ちふさがる男たちに、手をかざしたのは、副船長だった。
「どけ」
「な!!」
 短い召喚に応えて吹き荒れた風の嵐が、ピンを倒す要領で男たちをなぎ倒す。
 ひるんだところを、一気に彼らは駆け抜けた。
「この分だと、もう少しで辿りつきそうだな」
「そうだね…。………!」
「どうした?」
 ふと、立ち止まった副船長に釣られて、ロイドも足を止める。
 怪訝そうに見下ろした相棒の傍らで、副船長は遠くを見るような仕種をした。
「その魔力の波動…不死鳥…召喚…」
「んあ?」
「ティナ・カルナウスが、『ここ』にいる」
「ティナちゃんが!?」
 何たってこんなところに、とロイドは襲い来る男たちを片しながら呟く。
 キリのない猛襲に、こちらも剣の運びを再開した副船長は、しばらくしてまたしても動きを止めた。
「? …おい」
「…消えた」
「は?」
「魔力が、消えた」
 ローブの下から覗く瞳が、ロイドを貫いた。
「不死鳥が…召喚、されなかったんだ」
「………」
 その瞳の真剣な様子に、ただ事じゃないと。
 ロイドは、悟った。
「急ぐか」
「うん」
 二人はさらに遺跡を駆ける。
 三度、副船長が声を上げたのは、それからいくらも立たないうちだった。
「………また、妙な魔力が」
「ほえ?」
「邪悪な、黒い波動。――あの部屋から」
「あの部屋!?」
 ロイドは、指し示されたその場所を見る。
 何の変哲もないように見える、普通の石室のようだ。
「急ごう」
 あの魔力、気になる、と呟いたローブは速度を上げる。
 だが、
「うぉりゃ!」
 気合で扉を蹴り飛ばすロイドの隣りで、
「魔力が、消えた…」
 ローブの言葉が、ぽつりと落ちた。
 部屋の中には、さらに扉があり、扉を開けるともう一つ別の扉が覗く。
 何重にも奥まった堅固な部屋の一室に、ようやくたどり着いた彼らが見たものは――
「ここか!? 子供たちをさらって閉じ込めてるって場所は!?」
「………」
 人の壁を突破して、突き破るような勢いで部屋になだれ込んだロイドは、ぱちぱちと目を瞬く。
 そこには、何十人もの混血児がいた。さまざまな国籍の子供たちがいた。
 呆然と立ち尽くす男たちがいた。
 彼らは、突っ立っていた。
 一人の少年を取り囲むようにして、まるでそこだけ取り残されたかのように、大きな円を描いて。
 誰も今まで見たことのない、幻の珍獣が眼前に現れましたどうしましょうといった体で、一様に目を剥いて立ち尽くしていた。
「おいおい…なんだってんだ〜」
「あれは」
 想像をいろんな意味で裏切る情景に、ぽりぽり頬をかくロイドの横で、副船長が何かに気付く。
 そんな彼らに、円の真ん中から高い声が上がった。
「ロイド! ジェイド!!」
「はえ…クルスか?」
 何で、ティナの相棒であるはずの少年が、こんなところに。
 思わず視線を交わした二人の前で、人を掻き分けながらたどり着いた少年は、にゃはは、と屈託なく笑ってみせた。

* * *
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