――シェーレン国 死に絶えた都
「わーいわーい、ロイドとジェイドだーー」
「………」
盗賊たちが一人残らず沈黙する中、乗り込んできた『賊』の二人に駆け寄ったクルスは、尻尾があったら振り回す勢いで、にぱっと顔を輝かせる。
その脇をすり抜けるように混血児たちの中から一人の少年を見つけた副船長は、おびえる子供をひょいっと担ぎ上げて、ロイドの方を見上げた。
「じゃあ、帰るから」
「ほへー」
「この子が攫われたのは俺の不注意だから、取り返せば用はない」
「おいー。他のヤツら、見捨てていくのか〜?」
「………」
のんびりしたロイドの言葉に何も応えず、副船長は入り口の方へと踵を返した。
腕に抱かれた混血児の少年が、伺うようにローブの向こうの顔を見上げている。
他の子供たちも助けてあげないの?と言いたげな視線にも、彼は何も応えない。
そのまま歩みを進めて、扉から出るところだった。
「――自分の同属にも冷たいんだね。さすが、人間じゃない種族――混血児」
「…」
「クルス!」
ロイドの声が、非難するように響いた。
少年が放った言葉は、副船長だけでなく、その場にいた人間全員の身を凍らせる。
彫刻のように佇む人間達の真ん中で、向き合ったローブと少年の視線が、真っ向からぶつかり合った。
切り裂きそうな視線が、幼い瞳と不釣合いにローブを睥睨していた。
「どうしたの? 気でも害したの? 人外のクセに」
「…」
「逃げるんだね。けど、気付いてるんでしょ…? この遺跡には…」
「………そんなに、ティナを助けたいなら」
「…」
「自分で行きな」
「………」
そっけなく挑発を受け流した肢体は、そのまま通路の奥に消える。
緊張が解け、解放された人間達がほっとしたように息をついた。
「おいおいクルス〜。俺、さっきのはイイスギだと思うぞー」
「うん…ちょっと、イイスギだったよね…」
うー、とうなだれたクルスは、先ほど見せた表情の片鱗も感じさせない調子で、ため息をつく。
「オレ、ちょっと行かないといけないところがあるんだ。ロイド、この子達を助けてあげてよ」
「お、おう!」
任せろよ、と胸を張った大男に、にこっと笑って、クルスはたっと駆け出す。
「あ、ちょっとオイ、クルス…!!」
「んー?」
「どこ行くか知らねーけど、一人で大丈夫か? 迷子になったりしないか?」
「うん、大丈夫だよ! 行きたいところは分かってるし、危なくなったら戻ってくるから」
「そっか。そだよなー。ティナが方向音痴だから、相棒のお前まで迷っちまったら、旅なんてできねーよなー」
「…。うん」
ティナという名を聞いたクルスの顔が曇ったことに、ロイドは気付かなかった。
そのまま駆けて行ったクルスが見えなくなるまで、その背をのんびりと見守る。
「…さって」
ふいっと振り向いて石室の中を見渡したロイドは。
「………うぉうっ」
自分を恐る恐る見つめる幾十人の混血児とかちあって、思わず一歩飛びのいたのだった。
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