Lost Words
    神は始め、天地を創造された。「光あれ。」――こうして、光があった。
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  第五章 砂荒れる地の涙 
* * *
――シェーレン国『死に絶えた都』



「どういうことさ。別行動って」
 ヴェールをかぶった女は、そうはき捨てて、金髪の男――を睨みつけた。
「私に、このお嬢さんのめんどうを見ろって?」
「逆に聞くが、どうして無理に同行する必要があるんだ?」
 カイオスは、涼しい顔をして、言い返す。
「そこの彼女は、盗賊と交渉するため。俺は、こちらに流れている、ある物を手に入れるため。お前にいたっては、勝手について来ただけだろう」
「確かにね」
 悔しそうに唇を噛みしめ、女は一瞬黙った。
「けどね。――あんたも、気付いたんじゃないのかい? ここに、来る途中に――凄まじい魔力が立ち昇って、そして消えたのを。それを…このまま放っとくなんてさ…」
 布の切れ端から覗いた赤い唇が、ぎり、と音を立てて噛みしめられた。
 確かに、一瞬発現しかけたティナの不死鳥の魔力は、突然煙に巻かれたように消えてしまった。
 対峙しているのは、七君主の可能性もあり、そこに石板が絡んでいる可能性も高い。
 だからこそ、属性継承者でもない人間が、同行するのは、危険極まりない。
 さらに、女まで同行するということは、賊の行為を止めたいと付いてきた、シェーレン人の少女まで、同行させることにつながる。
 それこそ、荷物が増える以外の何者でもない。
「…」
 カイオスと女のやりとりを、怯える動物のように、少女がこっそりと伺っていた。
 少女の目的は、馬鹿げた人身売買をやめさせることであり、それにはヴェールの女の案内が不可欠だ。
 もちろん、単独行動など、取れるはずもない。
 黙って、なりゆきを見守るしかなかった。
 そして、その視線の先で、対照的に言葉を紡ぐ二人は、それぞれの自説を曲げるけはいなく、対峙している。
「いいんじゃないですか?」
 その微妙な膠着に終止符を打ったのは、意外すぎる人物だった。
「…」
 三者三様の視線が、その人物に注がれる。
「ローブさん」
 シェーレン人の少女が、声の主を呼んだ。
「そこの女の人は、多分あなたより魔力の程度はずっと上です」
「………」
 初対面のはずにも関わらず、断定的な口調に、カイオスは探るような視線を向け、女は虚をつかれた様に黙り込んだ。
 二人が言葉を発せないのをいいことに、今度は少女に向き直る。
「それから、あなたも…」
「は、はい」
「自分の身を守る力くらい、持っているのでしょう?」
「はい…さ、最低限、自分の命を守るための防御なら…」
「なら、問題ないのでは?」
「………」
 さっさと助けに行けよと言わんばかりに話を終えたローブに、
「あんた…」
 女が何か言いかけた。
 その時。
「あれー? カイオスたち! 何で、こんなとこにいるの?」
 かん高い少年の声が、微妙な空気を切り裂いて割り込んできた。
「………」
 話しこんでいて、近づいてくる陰影に気付けなかったらしい。
 四人が四人とも、一斉に視線を向けたその先に。
「おー、カイオスと、副船長じゃねーの。それから、新顔と…こないだ助けた子か…? 何で、お前らが面つき合わせて、こんなとこにいんだよ」
「情報屋の女と…あなたは、まさか…!!」
 アルフェリアと逞しい体躯を持ったミルガウス人の男が、駆け寄ってきた。

* * *
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