――シェーレン国『死に絶えた都』
「どういうことさ。別行動って」
ヴェールをかぶった女は、そうはき捨てて、金髪の男――を睨みつけた。
「私に、このお嬢さんのめんどうを見ろって?」
「逆に聞くが、どうして無理に同行する必要があるんだ?」
カイオスは、涼しい顔をして、言い返す。
「そこの彼女は、盗賊と交渉するため。俺は、こちらに流れている、ある物を手に入れるため。お前にいたっては、勝手について来ただけだろう」
「確かにね」
悔しそうに唇を噛みしめ、女は一瞬黙った。
「けどね。――あんたも、気付いたんじゃないのかい? ここに、来る途中に――凄まじい魔力が立ち昇って、そして消えたのを。それを…このまま放っとくなんてさ…」
布の切れ端から覗いた赤い唇が、ぎり、と音を立てて噛みしめられた。
確かに、一瞬発現しかけたティナの不死鳥の魔力は、突然煙に巻かれたように消えてしまった。
対峙しているのは、七君主の可能性もあり、そこに石板が絡んでいる可能性も高い。
だからこそ、属性継承者でもない人間が、同行するのは、危険極まりない。
さらに、女まで同行するということは、賊の行為を止めたいと付いてきた、シェーレン人の少女まで、同行させることにつながる。
それこそ、荷物が増える以外の何者でもない。
「…」
カイオスと女のやりとりを、怯える動物のように、少女がこっそりと伺っていた。
少女の目的は、馬鹿げた人身売買をやめさせることであり、それにはヴェールの女の案内が不可欠だ。
もちろん、単独行動など、取れるはずもない。
黙って、なりゆきを見守るしかなかった。
そして、その視線の先で、対照的に言葉を紡ぐ二人は、それぞれの自説を曲げるけはいなく、対峙している。
「いいんじゃないですか?」
その微妙な膠着に終止符を打ったのは、意外すぎる人物だった。
「…」
三者三様の視線が、その人物に注がれる。
「ローブさん」
シェーレン人の少女が、声の主を呼んだ。
「そこの女の人は、多分あなたより魔力の程度はずっと上です」
「………」
初対面のはずにも関わらず、断定的な口調に、カイオスは探るような視線を向け、女は虚をつかれた様に黙り込んだ。
二人が言葉を発せないのをいいことに、今度は少女に向き直る。
「それから、あなたも…」
「は、はい」
「自分の身を守る力くらい、持っているのでしょう?」
「はい…さ、最低限、自分の命を守るための防御なら…」
「なら、問題ないのでは?」
「………」
さっさと助けに行けよと言わんばかりに話を終えたローブに、
「あんた…」
女が何か言いかけた。
その時。
「あれー? カイオスたち! 何で、こんなとこにいるの?」
かん高い少年の声が、微妙な空気を切り裂いて割り込んできた。
「………」
話しこんでいて、近づいてくる陰影に気付けなかったらしい。
四人が四人とも、一斉に視線を向けたその先に。
「おー、カイオスと、副船長じゃねーの。それから、新顔と…こないだ助けた子か…? 何で、お前らが面つき合わせて、こんなとこにいんだよ」
「情報屋の女と…あなたは、まさか…!!」
アルフェリアと逞しい体躯を持ったミルガウス人の男が、駆け寄ってきた。
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