――シェーレン国 死に絶えた都
「よーっし、お前ら! いいかー。ちゃんと着いて来るんだぞー。はぐれんなよー」
数十人の子供たちを率いて、遺跡を抜けようとしていたロイドは、自分の置かれた状況について、ちょっと悲しいものを覚えた。
(まったくよー。副船長は帰っちまうし、クルスはどっか行っちまって戻ってこねーし、賊どもは怖がってロクに話もできやしねーし、こいつらは親鳥の後ついてくるひよこみてーだし)
さすがのロイドも、とほほと言いたいと思った。
先頭に立ったまま、ちらっと後ろを振り返れば、ぴよぴよと(言っているようにさえ見える)子供たちが、寡黙に素直に、後を無心についてくる。
(悪い気はしねーけどさー)
むしろ、ここまで素直についてきてくれると、ちょっと嬉しい。
もともとロイドは、子供が好きだ。
鬼ごっこをしたり、まとわりつかれたり、一緒に転げまわったり――考えるだけで、わくわくしてしまう。
(けどさー、この大人数つれて、船までってよー)
砂漠越えは、過酷な道中となる。
子供たちを一人で率いていくのは、大変な骨折りだ。
「ふー」
柄になく、真剣にため息をついたとき、彼は視界の端を、見覚えのある人影が、ぼんやりと過ぎったのに気付いた。
「んあー?」
とことこと、遺跡の中に入っていく、見覚えのある人影は。
(あれー? アベルか?)
副船長の妹が、どうしてあんなところに。
「………」
背後に並ぶひよこたちを一瞥して、ロイドはちょっと悩んだが。
「おめーら、ちょっとここの陰入ってて、待っててくれねーか? すぐに、戻ってくるからよー」
アベルが、カイオスやアルフェリアの護衛なしに、このようなところにいるのはおかしい。
そもそも、おそらく、王宮の一室にいるのがふさわしい娘が、どうしてこんな魔物の徘徊する砂漠のど真ん中にいるのだろうか。
(おかしーよなー)
さすがに、ロイドでもそう感じた。
その時、突然くいくいっと服の裾を引っ張る手がある。
「!?」
ロイドは飛び上がった。
人間(ヒト)の気配をつかめなかったことなど、滅多にない。
「な…なんだぁ?」
ひょいっとそちらを見たロイドは、おっとかがみ込んだ。
船で匿っていた混血児の子供が、藍色の瞳をじーっとこちらに向けている。
「お前よー、フェイと一緒に、帰ったんじゃなかったのかー?」
普段、滅多に近寄ってこない子供が、自分から何か言いかかっているのが、ちょっと嬉しい。
(けどなー、何が言いたいんだろーなー)
子供は、ちらりとアベルの方を見て、またロイドの方を見る。
ぱちぱちと訴える純粋な瞳に――
「行くなって…言ってんのか?」
確かに、何か――本能的な予感のようなものが、声をかけるのはやめたほうがいい、と言っている。
だが。
「………」
ロイドは、そっと子供の頭をなぜた。
「ごめんな。ちょっと行ってくるからよー。ここで、他のヤツらと待っててくれよ」
息をひそめて、そっと後を追った。
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