――シェーレン国『緑の館』
ティナが目覚めたのは、七君主に捕らえられてから――三日後のことだった。
「…あれ?」
ぱっと目を開けたティナは、ここ最近見覚えのある天井に、ぱちぱちと瞬いた。
七君主と対峙して、不死鳥の召喚に失敗した。
マリアと共に、現のどこだか分からない空間で、様々な話を聞いた。
そして、そこで彼女は自分自身の『力』と向き合わなければならないことへの決意をした。
そして――。
意識を失う前の最後の記憶では、カイオス・レリュードが、自分に対して剣を向けていて、――そして胸に衝撃が走ったところまで…。
「あれー?」
起き上がって、ぽりぽりと頬をかく。
すると、すぐ近くでくすりと笑う声がした。
「お気が付かれましたか?」
「わ! びっくりした…」
「あ、ごめんなさい…」
ティナの驚きように、慌てて謝った少女は、シェーレン人独特の緑色の目を、やわらかく細めた。
本人には、一度だけ会った。
緑の館の朝、カイオスと連れ立って、出て行ってしまった人物――。
(…あ)
ティナは、何となくその面影に見覚えのあるものを感じる。
その人の眼は永遠に閉じたまま、その中をうかがうことはできなかったけれど。
(マリア…の妹…)
その名を、記憶から手繰り寄せる。
「セレア…?」
「え? あの…私を、ご存知、だったんですか?」
「え、ええっと、いや、ね…」
まさか、死んだはずの人間に聞いたなんていえない。
慌てて話題を変えようと、口を開いた。
「それはともかく――なんで、私…あ、あなたも…こんなところに?」
「覚えて…いらっしゃらないんですね…」
「えっと…うん、あんまりね…」
「どこから、お話したらいいのか…」
セレアが、小首を傾げるような仕種をしたとき、不意にドアの外が騒がしくなって、ばたんと開いた。
「セレアー! ご飯できたよー!」
「私が代わるよ…あれ、起きたんだね」
クルスと、見知らぬ女が入ってきて、起きているティナに気付く。
途端に、少年が飛びつくように傍に来た。
「ティナ! 大丈夫!?」
「ええっと…そうね、とりあえず、何がなんだか分からないんだけど、お腹すいたかも…知れないかな」
「…」
ぽりぽりと頬をかきながら言ったティナに、クルスは目を丸くした。
「えっと…え、ご飯…」
「…ふふ…。面白い方ですね」
「そうだねえ。あんなことがあった後で」
「『あんなこと』?」
表情を緩めた女たちは、そこで少し目を伏せた。
クルスが、言いにくそうに言った。
「うん…ティナが、寝てる間に、いろいろとあったんだよ…」
「…?」
「まあ、ご飯でも食べながら、ゆっくり話そうか。時間は、あるんだからさ」
女が肩を竦めて、静かにまとめた。
釈然としないまま、ティナはこっくりと頷いた。
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